大判例

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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)62号 判決

本件審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。

一原告は、本件特許発明の装置では、第一のローラと第二のローラで形成される転写区域は連続的に形成されるが、第一引用例の装置では間欠的にしか成立し得ないから、同じ転写区域が形成されるとした審決の認定は誤つている旨主張する。

しかしながら、成立について争いのない甲第四号証(本件特許公報)によれば、本件特許発明の明細書の特許請求の範囲には、第一と第二の「ローラ間に接触線に沿つた転写区域を形成し、」と記載されているのみであつて、本件特許発明は、右転写区域が連続的に形成されることを要件としていないものと認められるから、第一引用例(成立について争いのない甲第一号証)の装置においては転写区域が間欠的にしか成立し得ないものであつても、本件特許発明と第一引用例とでは、ローラによつて同じ転写区域が形成されるとした審決の認定に誤りはない。なお原告は、第一引用例の図面に番号28で示されるものは「ローラ」ではなく、「シリンダ」又は「ドラム」であり、円周の一部が欠けた大径のシリンダ又はドラムと小径の加圧ローラとがどのようにして駆動力を及ぼすように互いに係合しているのかの説明は第一引用例にはないから、本件特許発明における転写区域を第一引用例のそれと同一視することは誤りである旨主張するが、第一引用例の図面に番号28で示されるものが円周の一部が欠けたシリンダ又はドラムであるといつても、それは軸心を中心として自在に回転する円筒形状体のものである(訳文七頁一〇行~一二行及び第2図)から、これをローラといつてもシリンダ又はドラムといつてもその間に実質的な差異はなく、また、シリンダ又はドラム28と加圧ローラ36とがどのようにして駆動力を及ぼすように互いに係合しているかの具体的説明が第一引用例にはなくても、感光紙を現像する転写区域附近において、駆動力を及ぼして同期的に回転するように互いに係合していることは明らかであるから、原告の主張は理由がない。

更に原告は、本件特許発明の第二のローラが非多孔質である点について、第二のローラに相当する第一引用例のローラ(シリンダ又はドラム28)がこれと実質的に同一であると認定したことを非難するが、第一引用例のローラ(シリンダ又はドラム28)の表面には、審決のいうとおり、ゴムブランケツトが被覆されており、しかもそのゴムブランケツトは必要な制御量の液を支持できる(甲第一号証訳文七頁一八行~二二行参照)のであるから、本件特許発明でいう「非多孔質」のものであると認められるので、原告の非難は当らない。

この点に関し、原告は、本件特許発明の第二のローラは、ワイパーと協同して、厳格に制御された、紙に塗布される量が一平方メートル当り三・〇g以下という現像液量をその表面の不規則形状の微小凹入穴内全般に保持しなければならないという意味での非多孔質であることを必要とするとせられているのに対し、第一引用例のローラに要求されるのは、それが平滑な表面をもつこと、多少表面に凹凸をもつ紙面に対しても完全にインキを転写出来るよう充分な弾性をもつことであつて、その表面自体が非多孔質であることではない旨主張する。

しかしながら、複写紙に塗布される現像液の量が一平方メートル当り三・〇gを超えないものである点では第一引用例のものも本件特許発明も同じであることは審決認定のとおりであり(第一引用例特許請求の範囲1の項参照)、審決は、液量制御の方法についてのみ第一引用例は本件特許発明と異なる、すなわち、本件特許発明においては、ワイパーをローラに押しつけて過剰の現像液をぬぐい取つて液量を制御するのに対し、第一引用例のものは、シリンダ26とローラ28の接触圧力を調整することにより液量を制御している点で相違するとし、ワイパーで過剰の現像液をぬぐい取つて液量を制御することは第二引用例(成立について争いのない甲第二号証)にみられるように周知の手段にすぎないとしたものであり、審決の右認定はこれを是認することができるから、原告の前記主張は結局において理由がない。

二 原告は、審決が「本件特許発明においては、第二のローラの表面の滑らかさを一〇―一〇〇μin(〇・二五―二・五μ)に限定してあるが、これは機械加工における精密仕上げ表面の粗らさに相当する滑らかさであつて、それは意図するまでもなく種々の深さと寸法を有する不規則な微小凹穴を有しているものである。」と認定したのは誤りであるとし、ローラの中心軸線方向の平滑さを一〇―一〇〇μin(〇・二五―二・五μ)の範囲とすることが仮りに機械加工上の尺度としての精密仕上げの程度に一致するとしても、そのものが常に、本件特許発明でいう、「調整された量の現像液を保持できるように」された「種々の深さと寸法を有する不規則な微小凹入穴を有する非多孔質表面を具備」していることにはならないと主張し、本件特許発明の第二のローラの「種々の深さと寸法を有する不規則微小凹入穴」というのは、意図して構成される表面である旨主張する。

しかしながら、第二のローラについては、本件特許明細書に、「塗布ローラは天然又は合成の非多孔質ゴムを固い金属芯の周りで成形して作ることができる。ブナ―N型合成ゴムから製作したローラも特に上首尾であつた。天然ゴムのポリイソプレンはスチレン―ブタジエン、ポリブタジエン、及びイソブチレン―イソプレンのごとき合成ゴムと同様に使用しうる。塗布ローラとして機能するためには、ゴムの硬度は針入度硬度にして四〇―六〇、好ましくは五〇―五五の範囲になければならない。」と記載され(甲第四号証五欄四二行~六欄五行)、それ以上それがどのような特殊な処理方法を用いて作られるものであるかについては何らの記載もなく、また、表面の粗らさについては、「前記の表面特性は表面の滑らかさの程度に相関的である。若し表面が荒すぎると、あまりに大きい凹入穴が存在することを意味するから現像液の担持は多量すぎ、結局機械的なワイパー手段は制御手段として使用できないようになる。滑らかすぎる表面は適正な現像を行うには不充分な量の現像液を運ぶにすぎない。現像液の供給限界は複写紙の一平方メートル当り〇・五―三・〇gである。」と記載されており(甲第四号証六欄二二行~二九行)、右記載によれば、本件特許発明における第二のローラの表面の粗らさは、第二のローラに過剰に塗布された現像液をワイパーでぬぐい取つて、複写紙にその一平方メートル当り三・〇gを超えない量の現像液を供給する程度に液を担持する粗らさであつて、その粗らさとは結局、第二のローラの中心軸線方向の平均平滑さが一〇―一〇〇μin(〇・二五―二・五μ)である(甲第四号証七欄四行~八行及び特許請求の範囲の項参照)ことを示しているにすぎないものというべきである。しかして、第一引用例においても、露光済みのシート38に塗布する現像液の量は支持面全体に〇・五ないし三・〇g/m2の割合であることが記載されている(甲第一号証訳文八頁二行~四行)ことは審決のいうとおりであり、また、ローラの表面凹部の深さと寸法を特に規則的になるようになんらかの方法で意図して製作しないかぎり、その表面は種々の深さと寸法を有する不規則な微小凹入穴を有するものであることは、むしろ常識である。そして、ローラに塗布された過剰の現像液をワイパーでぬぐい取つて現像液量を制御することが第二引用例に記載されていることは審決のいうとおりであるから、原告の前記主張も結局において理由がない。

原告は、甲第六号証の実験報告書で使用されたゴムローラ、スチールローラ、ブランケツトローラのそれぞれの表面粗らさは、四九μin、五一μin、六四μin(いずれも本件特許発明の第二のローラの中心軸線方向の平均の平滑さの範囲内)であるにかかわらず、その表面の形状、液保持量、複写紙面像等は全く異なつているが、このことは全面が不規則の微小凹入穴で満されるという要件と平均平滑さに関する数値要件が全く別のものであることを証明するものであつて、精密仕上げをすれば当然に不規則の微小凹入穴が形成されるという判断の誤りを示すものであると主張する。

しかしながら、甲第六号証で使用されたローラの材料は、ゴム、スチール、ブランケツトとそれぞれ異なるから、その表面粗らさがおのおの近似していても、その表面の形状、液保持量、複写紙面像等が異なることは、けだし当然のことであり、原告の主張は採用できない。

三 原告は、本件特許発明におけるワイパーは、審決のいうごとく、「第二引用例にみられるように液体現像装置のドクターナイフ等にて行う周知の液量制御手段にすぎない」ものではなく、第二引用例のドクターナイフは、ナイフとローラとの間隙を調節することによつて、ローラ上に担持される液量を制御しようというものであり、ローラ上に担持される液量は、ローラの速度変化と、ローラとナイフとの間隙の大小という二つの要因相関々係によつて左右されるのに対して、本件特許発明のワイパーはローラ上に担持される液量を調節するものではない旨を主張する。

しかしながら、第二引用例(成立について争いのない甲第二号証)におけるドクターナイフが常に、ナイフとローラとの間隙を調節することによつてローラ上に担持される液量を制御しようとするものであるということはできず、特に第二引用例二頁左欄二〇行ないし二四行には「このローラは滑らかな表面のものでも、不規則な面をもつものでもよく、また溝又は凹所が設けられているものでもよく、更にはローラの表面における液保持能力を増大せしめるべく構成したものでもよい。」との記載があり、第二引用例におけるローラの面が不規則であつて液保持能力を増大せしめるべく構成されたものにドクターナイフを用いる場合は、本件発明の第二のローラにワイパーを用いるのと同様な用法となるものと考えられる。

以上のとおりであつて、原告の主張はいずれも理由がなく、本件特許発明は第一、第二引用例に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとした審決の認定に誤りはないから、これを違法としてその取消を求める原告の請求を棄却する。

〔編註その一〕 本件における特許発明の要旨は左のとおりである。

一平方メートル当り三・〇gを超えない量の現像液を露光済の感光紙に印刷式に塗布することにより感光紙を現像する装置において、第一及び第二のローラを駆動力を及ぼすように互いに係合させて両ローラ間に接触線に沿つた転写区域を形成し、前記第二のローラには種々の深さと寸法を有する不規則な微小凹入穴を有する非多孔質表面を具備させると共にその中心軸線方向の平均の平滑さを一〇―一〇〇μin(〇・二五―二・五μ)の範囲として調整された量の現像液を保持できるようにし、前記保持表面の一部に対して過剰量の現像液を塗布する手段を設け、前記第二のローラに親密な接触をするようにワイパーを押付けて前記第二のローラが現像液を塗布された後でしかも前記転写域へ入る前に前記保持表面から過剰量の現像液をぬぐい取るようにした現像装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

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